「怒り」ネタバレ感想

「怒り」観ました。

タイトルがとにかく成功していた。

群像劇とは聞いてたから、とにかくそれぞれの登場人物が何かに「怒って」いるんだろう、それによって物語がリンクするんだろうと思いながら観始めました。

でも、物語終盤になるまで、ほとんどの登場人物の「怒り」は見えてこなかったんですよね。冒頭の犯人の血文字の「怒」だけが強烈に頭に残っているけど、どうもそれが各物語とそこまでリンクしない。唯一早めに登場したのは、辰哉の父が政府に抱いている「怒り」、それからレイプされた泉ちゃんが米軍や辰哉(そしてその他色んなもの)に対して抱いた「怒り」。それくらいしかはっきりわかるものはなかった。それ以外では怒りというより、切なさとか悲しみとかやりきれなさとか、怒りとはちょっと違う感情しか登場しなかった。

でもだからこそ、終盤にかけての怒涛の「怒り」の正体に震えた。

特に私が印象に残っているのは、愛子の怒り。指紋鑑定結果を告げられる時に最初どちらかわからなくして引っ張る演出があったけど、あの演出で私は愛子が悲しくて泣いたのか、ほっとして泣いたのかどっちだろうとやきもきした。でも違った。愛子はあの瞬間、田代くんを信じてあげられなかった自分に「怒った」のだった。最初の演出の時点で、そこに愛子の「怒り」を見つけられる人がどれだけいるんだろう。これは宮崎あおいの演技が本当に凄かったと思うんだけど、愛子が大泣きしている姿を音声つきで見せられて初めて、じわじわと愛子の怒りが伝わってくるのだ。せっかく掴みかけた幸せを台無しにしてしまった怒り、殺人犯の疑惑を持ちかけた父や明日香への怒り、ただの孤独な青年だった田代くんをここから追い出してしまった自分への怒り。そういうものが、愛子の泣いているシーンだけで次々に伝わってきてつらかった。

一番わかりやすかったのは、やっぱり辰哉と田中の怒り。反対に一番わかりにくかったのは、優馬の怒り。

優馬と直人の物語だけは、最後の最後まで「怒り」が見えてこなかった。薫から話を聞かされた瞬間にはおそらくまだ怒りではなく悲しみで、店から出て歩いている時に、悲しみが怒りに移り変わっていったんじゃないかと私は思った。隣の墓に入れたらいいなと言っていた直人を、公園の茂みの中で死なせてしまった自分への怒り。信じてあげられなかった、逃げてしまった自分への怒り。過去のことをなんにも話さず、猫のようにふっと消えて死んだ直人への怒りもあったかもしれない。

この映画は、大きく分けると「信じてあげられなかった自分への怒り」と「信じていたのに裏切られた怒り」から成り立っている。愛子が泣いている時(だったかな?)にテレビで流されていた辰哉の言葉、「信じていたから悔しかった」が、3つの物語を繋ぐのではないかと思う。

この2つの怒りは、見ている者が共感できる。一緒に悔しくなり、登場人物の怒りと自分の怒りとをリンクさせられる。でも、この3つの物語を引き起こした根本の「怒り」、田中もとい山神の「怒り」。これだけは、見ている者が共感できないようになっているから不思議だ。山神の怒りは、「信じていた」なんてことには何も関係がない。ただ自分一人の中で怒りを生成している。

そしてなにより山神は、見ている側の私達に怒りを生成させる役割を担っている。山神の最低な物言いに怒りが込み上げる視聴者と、壁の傷を見て咆哮する泉ちゃん。そこで映画と観客の感情がリンクして終わる。映画の中で「怒り」を描くだけでなく、観客の中にもしっかりと「怒り」を残すのが凄いと思った。

凄いと思ったところは他にも細々とあるけど、収集がつかなくなってきたので終わります。

とにかくキャストの演技が文句なしだったし、繋がっているようで繋がっていない少し繋がっている物語というのが私は大好きなのでめちゃくちゃ楽しめました。同性愛描写も思ってたより濃厚だったし正直それを楽しみに観に行ったとこもあったけど、観始めたらもう自分が腐女子だということを忘れてしまった。

(あと海老ちゃんさんがスクリーンで観れたのも感動でした…!エンドロールに名前あった!すごい!)

以上!